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大阪家庭裁判所 昭和54年(少ハ)3号 決定 1979年7月17日

少年 K・I(昭三三・七・三一生)

主文

本人を昭和五四年九月六日まで中等少年院に継続して収容する。

理由

一  本件申請の理由は、浪速少年院長○○○○作成の昭和五四年六月一五日付「収容継続申請について」と題する書面記載のとおりであるからここに引用する。

二  当裁判所の判断

本件記録調査ならびに審判の結果次の通り判断する。

本人は昭和五三年七月二六日当庁において恐恐、覚せい剤取締法違反、業務上過失傷害、道路交通法違反保護事件につき、中等少年院送致決定をうけ、その際裁判官の確固たる職業観の養成のため職訓課程による処遇が望まれるとの勧告が付されたことから同月二八日浪速少年院に収容されたものであるが、同月三〇日をもつて満二〇歳に達したため少年院法一一条一項但書による収容継続を行い、昭和五四年七月二五日をもつて収容期間満了となるものであり、現在同少年院の電工科に編入されている。

ところで、現在の本人の考え方、生活態度等は入院前に比し相当の改善が認められるが、昭和五三年九月二一日には口論で寮主任注意となつた外、同年一二月七日には暴行で謹慎一五日、昭和五四年二月一四日には生活態度不良(規定外テレビ視聴)で謹慎一三日、同月二八日には態度不良就寝後の交談で反省、同年四月二五日にはテレビ不正視聴で訓戒、同年五月三一日には不正通信で謹慎三日とそれぞれ処分を受け、規律違反が多く、いまだ少年の性格、行動面での問題点が払拭されたものとはいい難く、個別的処遇計画の目標達成状況も必ずしも満足なものではない上、処遇段階も一級下にとどまつており、出院時教育課程への編入は現状の成績から通常では昭和五四年八月一日とみられる。

また、本人は、出院後伯父のA方に帰住し、叔父の経営する電工会社で稼働することとなつており、本人にとつて電気工業士資格の取得は本人の更生のために極めて有効であると考えられるが、本人の基礎学力の不足等の理由から、ときには専門学科の学習を投げ出しそうな構えをみせ、その都度職員の激励をうけて気を取直して努力しているが、前記規律違反やその調査のため進度は著しく遅れており本年一〇月下旬に予定されている実技試験のためにはなお相当期間の実習を績み重ねておかねば合格が見込まれない状況である。

以上の事情を総合し、少年を少年院法一一条一項但書の期間満了後昭和五四年九月六日まで引続き本院に収容するのを相当と認める。

よつて少年院法一一条二項、四項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 米里秀也)

別紙

浪少発四二一号

昭和五十四年六月十五日

浪速少年院長 ○○○○

大阪家庭裁判所長 ○○○○ 殿

収容継続申請について

少年氏名 K・I(昭和三三年七月三一日生)

本籍 大阪府豊中市○○町×の×××番地

保護番号 昭和五十三年少第五五〇五号他

決定裁判官 大阪家庭裁判所裁判官○○○

右少年は昭和五十三年七月二六日貴庁において中等少年院送致決定をうけ現在当院に収容中のところ、昭和五十三年七月三十日をもつて満齢に到達したので少年院法第十一条第一項但書により昭和五十四年七月二五日まで収容を継続する旨の決定をいたしましたが、なお個別的処遇計画に基づく目標達成度も低い上に、職業訓練課程での資格取得の必要もあるので、同法第十一条第二項によつて昭和五十四年七月二六日から同年九月六日まで四十四日間の収容継続を賜りたく資料を添え申請いたします。

なお同少年にかかる少年調査記録を送付いたします。

別添資料

1 処遇経過等

2 個別的処遇計画票(写)

3 再鑑別結果通知(写)

一 処遇の経過

53・7・28 大阪鑑別所から入院、二級下編入、考査収容

7・29 院法第十一条第一項但書による収容継続決定言渡

8・4 入院時教育課程(入院時寮)編入

9・16 中間期教育課程(西二学寮・電工料)編入

9・21 口論~寮主任注意

10・9 大阪地裁へ証人出廷(覚醒剤事件)

11・1 二級上進級

12・7 暴行~謹慎五日

54・1・29 応当日経過通告書送付

2・14 生活態度不良(規定外テレビ視聴)~謹慎十三日

2・27 施設担当官と協議(準備面接)、謹慎解除復寮

2・28 ○○裁判官動向視案来訪

〃 〃 態度不良(就寝後の交談)~反省

3・9 反省解除復寮

3・16 夜間個別処遇

4・2 一級下進級

4・25 テレビ不正視聴~訓戒引続き内省処遇

5・4 内省解除、引続き夜間個別処遇

5・24 大阪鑑別所へ再鑑別依頼

5・29 再鑑別実施

5・31 不正通信~謹慎三日

6・3 謹慎解除、夜間個別処遇

6・15 院法第十一条第二項による収容継続申請(大阪家庭裁判所宛)

二 身心の状況

精神状況は準正常、知能は新田中B1式87。クレペリンはf(b)で作業量は高くない、文章表現力は問題はないが、計数が不得意。性格は外向的で物怯じせず自己顕示的で意地つぱり、感情の抑制が乏しい。身寄りのない境遇について内面では敏感、卑屈、愛情飢餓感を有しているが、現在外面的には小生意気ながら割合朗らかではきはきしており開放的である。身体状況は特段の異状は認められず健康である。(少年鑑別所精神状況所見及び再鑑別結果通知書所見より。)

三 保護状況

実父T・Dは昭和三九年実母と協議離婚後事故で死亡、実母はK・Mと再婚したが昭和四七年死亡。養父も昭和五二年に自殺した。少年は養護施設を経て昭和四九年から叔父A方に世話になつており、出院後もA方に帰住して○○電気で稼働することになつている。本年四月二六日付大阪保護観察所からの環境調整報告も「受入可」となつている。そのため少年にとつても電気工事士資格は必要かつ有効であり、保護者もその資格取得を要望している。

四 成績の推移

1 入院時教育課程(ほぼ一か月半)

基礎学力が大分低い上に入院当初から職訓について行けないのではないかという不安があり、処遇勧告や叔父方での受入条件に重圧感を抱いていることから学習を厳しく迫られると、出来ないものは出来ないと居直る場面もあつた。学科では特に数学が悪く二回とも十五点と低得点で全般的に伸びはみられなかつた(入院時教育課程成績評価参照-別添2)。生活行動もはじめは安易感から脱けきらず時間さえ経てばという考え方も見られ課程履修の意義も十分理解しなかつたが職員の個別的な学習指導や助言及び保護者の激励で生活態度や学習意欲の向上は若干みられたものの物事に直面したとき他罰的になりやすい面が特徴的だつた。

2 中間期教育課程前半(ほぼ五か月間)

学習面や生活面での取組みが不十分なため同期入院者より一期(十五日)遅れて中期教育課程として西二学寮・電工科に編入した直後に意地つぱりな顕示傾向から同室生と口論となり寮主任注意をうけた。その後はやや自重振りはみられたものの取組に積極さがみられぬままに生活の慣れから無気力な安易傾向に堕し易い点が指摘され、職訓でも電工学科が全く振わず足踏み状態のところ、十二月には同僚に因縁をつけて一方的暴行で謹慎五日、五十四年二月には深夜テレビの不正視聴で謹慎十三日とつづいた。また専門学科は学習態度、意欲、理解とも悪く半分投げ出しそうな構えをみせ、その都度職員の激励指導をうけても永続きせず、三月には生活態度不良(就寝後の交談)で反省(洗心寮収容)と相次ぐ規律違反で生活の歯車が噛み合わず、また寮での対人関係もうまくいかず少年の希望もあつて三月十六日以降夜間個別処遇となつた。

3 中間期教育課程後半(ほぼ三か月間)

本年四月二日夜間個別処遇状態で一級下に進級したが、職訓の実習進度も伸びず、どうかすると不適応を起こしやすいままに四月二五日には再びテレビの不正視聴で訓戒、五月には不正通信で謹慎三日と一か月に一度の割合で規律違反がみられ現在に至つている。

4 現在の状態

不正通信で調査になつた直後の心情は「電工の免許はどうなつてもよい……。先生方のアドバイスもいらない……。極道で通してゆきたい。」(5/23日記)という開き直つた状態もみられたが、現在では気をとり直して「試験までベストをつくす。……最後までやりぬきます。」(5/31日記)という日もあるし、「先生の言う通りにしているだけの生活。……21歳の人間が17歳・18歳の人間と生活するのが阿呆らしい。」(6/1日記)と考えたり、ともかく目的的方向がなお定まり切れずにいる状態である。

五 個別的処遇計画の段階的到達目標の達成状況

1 電工科課程の技術及び資格の取得

この項目については本人の計算嫌いと職訓不適という思込みがある上に数回の反則やそれに伴う調査等のため進度が著しく遅れている。七月一日施行予定の学科試験をめざして今のところ頑張つてはいるが目標はなお未達成であり評価は(c)(ある程度達成)。

2 安全教育の徹底を図り仕事へのていねいさ、注意力を身につけさせる。

当初は結線練習も間違いが多く作業振りも雑なところを指摘されたが、現在では割合注意深く工具の誤用もみられず、考えながら仕事を進める態度も養われて評価は(B)(ほぼ達成)。

3 物事の手順を通して遂行するという習慣を身につけさせる。

興味や関心のあるものについては割合励行されているが、生活面での誠実な基礎的な積み重ねが十分でなく、ともすれば満期で退院することばかり考える打算が先行してしまつて歪んだ年齢意識と意地つぱりな顕示がとび出してしまつて集団場面では失敗が多く、証価は(D)(多少進歩はみられるが未達成)。

4 感情を抑え穏やかに事をはこぼうとする気持を増大させる。

何回かの規律違反を経て感情抑制の必要は身にしみて痛感しており、そのための方法も問題があつても口にせず日誌に記入して感情を抑えるようにするなど自分なりに考えている様で評価は(B)(ほぼ達成)。

5 覚醒剤の恐しさを理解させ、薬物使用が自分を傷つけること、また自分の問題に直面して解決していこうとの姿勢がなかつたことの認識。この項目については、ほぼ達成している。「私も以前はシャブで遊んでいましたが若しあの猿が私であればと思うと恐しくなりました。……私は単なる眠気覚ましの様に思つて何の気なしに打つて随分金を使いましたが今度こそはつきりわかりました。覚醒剤はぜつたいにやめます。」(6/4V・T・R「覚醒剤の恐怖」感想から)評価は(B)(ほぼ達成)。

6 将来への生活設計。

叔父方で電工として働きたいという意志も認められるが、肝心の電工学科の履習が遅れており将来への具体的な努力を欠き、また叔父夫婦に迷惑をかけないという心構えも不十分である。評価は(D)(多少進歩はみられるが未達成)。

六 資格の取得状況

少年は大阪家庭裁判所○○裁判官からの「確固たる職業観の養成のため職訓課程による処遇」という趣旨の勧告があり、しかも「電気工事を営む叔父方への引き取りが予定されている。」という付記もあつて少年の帰住要件としては電気工事士資格を得得することが必要とされるところ、なおその資格を取得せず、目下七月一日施行の資格取得(学科)試験を目指して勉強中である。現在の状況では受験予定者中成績は最下位で合否すれすれであり、また学科に合格しても十月二十一日の実効試験のためにはなお一ヶ月半程度の実習を積み重ねておかなければ退院後の十月下旬に行われる実技試験には到底合格が見込まれない。

七 収容継続決定の際の教育内容

少年は現在一級下に止まつており、なお中間期教育の課程にある。現状の成績からみて出院時教育課程への編入は、八月一日と予定され通常二か月乃至三ヶ月を要する出院時教育課程であるが、今年七月三十一日で少年の二十一歳という年齢的自覚も加味して約一か月半で終了の上、退院させることとし、その間に未だ達成されない個別目標を少なくともある程度達成(C)の段階まで達成させたい。それについて少年に施すべき教育内容としては次のようなものである。

1 帰住後の就労上必要な電気工事士資格の取得のための実習

2 日誌・内省作分及び面接指導(自分をみつめ将来の生活設計の確立)

3 現在夜間個別処遇であるが、なるべく早い機会に集団処遇にもどし集会活動や役割訓練の実施(集団での社会的行動の養成)

4 出院時講座の実施(社会生活上の知識と心構えの育成)

5 キャンプ訓練・外出など社会内処遇への準備以上。

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